人事や採用に関する書籍は山のように出版されていますが、忙しい人事や採用担当の方はなかなか本を読む時間や選ぶ時間が取れないはず。そこで人事や採用担当の方の代わりになって、本を読んで簡単に要約してオススメしたり、オススメしなかったりするのが、「人事の代わりに読みました」です。
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著書は横浜国立大学大学院国際社会科学府・研究院准教授である服部泰宏(@hatto525)さん。服部さんのお名前とこの「採用学」という研究領域は、ちょっと前から割とHR界隈では話題になっていたので知っている方も少なくないかもしれません。
ただ個人的には「採用の現場も知らない学者様のご高説なんて、どこまで役に立つのですかねぇ」的なヒネくれた気持ちが大きくてスルーしてきたのですが読み終わった今では、企業の採用に関わる方、特に新卒採用に関わる方や、私たちのようにHR系のビジネスを仕事にしている方にはオススメしたい気持ちでいっぱいです。
ということで、「採用学」人事の代わりに読みました。
オススメ度:★★★★☆
■目次
序章 「マネーボール」で起きたこと
弱者が強者を食った/資金を持つ者が制す世界/チームへの貢献とは?/優秀さは創り出せる/採用を科学的に考えよう
第1章 「良い採用」とは何か?なぜ新人が必要なのか?/良い採用、悪い採用/採用活動の流れ
コラム1 「母集団」の正しい意味
第2章 ガラパゴス化している日本の採用
東大40円、慶應28円/大学は出たけれど/『リクルートブック』の衝撃/ESとウェブ時代/大規模候補者群仮説/曖昧な評価基準/候補者獲得競争のヒートアップ/受け答えが良すぎる
コラム2 就職情報サイトは罪か?
第3章 なぜ、あの会社には良い人が集まるのか
科学的手法を用いるとは?/入社後のリアリティ・ショック/ホントの情報を与える/現実路線の採用が効かない場合/募集情報を熟読しない/引き止めるために必要なこと/内定受諾直前の心理
コラム3 入り口の多様化は何をもたらすか?
コラム4 魅力的な「口づて」採用
第4章 優秀なのは誰だ?
「優秀さ」を分解してみる/選抜時の四つのポイント/人の何を見ればいいのか?/変わる資質、変わらない資質/入社後の育成機会はあるか?/何を「見ない」かが重要/選抜とは推測である/選抜手法に関するその他の基準/最終決定に潜む落とし穴/募集と選抜はワンセット
コラム5 面接に紛れ込むバイアス
第5章 変わりつつある採用方法
2016年卒採用はどうだったか?/ここが違った/採用フローはほぼ踏襲/こんな採用が行われている/傾向を分析してみると/ユニークな採用4例
第6章 採用をどう変えればいいのか
採用力の正体/採用リソースの豊富さ/採用デザイン力とは/「新しさ」はやがて当たり前になる/WHYよりもHOW/事実に基づく経営とは何か/「知っている」「わかっている」つもり/「採用」と「育成」の連動/採用プロフェッショナルを/「優秀さ」を創り出す
引用元 新潮社 「採用学」
http://www.shinchosha.co.jp/book/603788/
■一貫した科学的な態度と見え隠れする著者の強い意思
著者の主張は、ある意味でシンプルです。一言でいえば、雰囲気や慣例ではなく「ロジック」と「エビデンス」をベースにした科学的な手法で、それぞれの企業ごとの「良い採用」を実現していこうという感じでしょうか。
そのために第1章では「良い採用」の定義をまず行い、第2章ではガラパゴス化してしまった日本の採用を歴史的な経緯から紐解き、第3章では採用プロセスをモデル化した上で各フェーズごとの求職者の意思決定を分析しながら最適なコミュニケーションデザインを探り、第4章では、当たり前のように語られている既存の優秀な人材の定義の方法と面接に代表される選抜方法を欧米の先行研究を元に疑い、第5章では変わり始めている日本の採用事例を紹介しつつ、終章となる第6章では新しい採用の道筋を提唱していきます。
一貫しているのはロジックとエビデンスをベースにした科学的な態度と採用というあいまいなものを体系化してやろうという強い意志。例えば、「応募者の中の優秀層の含有率は一定のはずだから、応募者の数が増えれば増えるほど優秀層の絶対数が増えるはず」というある意味では、私たちにはお馴染みの「大規模候補者群仮説」も科学的な裏付けがない共同幻想だとバッサリ切って捨てます。
採用の難しいところは、意思決定のタイミングとその成果が確認されるタイミングの時間的なスパンが長すぎるという点だと思います。新入社員の採用が正解か不正解かなんて、短くて数年後、下手すれば10年後にならないと分からない。入社10年鳴かず飛ばずだった人材が11年目に大活躍しはじめたとしたら、その採用は正解なのか不正解なのか。因果律が人間には直感的に理解できないほど長いからこそ、「科学」よりも「慣行」が幅をきかせ、何かおかしいなと感じている現場の人間もそう簡単に変えることができない。
そんな私たちにとっては、どの企業もこれをやっておけば正解という「普遍解」はないけど、企業ごとの「最適解」を導き出す方法は必ずあるはず、という著者の姿勢には非常に勇気付けられます。
■すぐに役に立ちそうな所、面白かった所
・期待のミスマッチ「リアリティ・ショック」を予防する「現実路線の採用」手法
・企業側から提供される情報が多くなるほど、求職者にとっての企業へのポジティブな評価は高くなる
・求職者の意思決定において、採用担当者がコントロール可能なものは意外と少なく「採用プロセスの妥当性」くらいのもの
・変わりやすい資質と変わりにくい資質という研究の結果
・様々な選抜手法の中で「非構造化面接」の妥当性が驚くほど低いという研究結果
・適切な能力要件と選抜ツールがあるなら、採用担当の総合評価は「採用基準の拡張」現象を避けるために行わないほうがいい
・採用担当は、専門職として育成した方がいい
・新しい採用手法に取り組んでいる企業の共通点は採用と育成の担当が同一人物であること
※上記は、かなり省略しているので、実際は本を手に取り確認してください。
■こんな人事/採用担当の方にオススメ
・新卒採用担当の方
・自社の採用活動全般を見直したい方
・現在の人材要件の定義が疑わしい方
・面接など、選抜プロセスに悩んでいる方
・「新しい採用活動」のヒントをもらいたい方
■さいごに
多くの企業の採用活動、そして自社の採用に長く携わり、つくづく「採用と育成とはコインの裏と表のような存在だ」と思っていた自分には、第4章そして第6章で語られている「採用と教育の密接な関係性」にはとても共感しました。
自分たちの育成能力が採用上の人材要件を定義し、また採用能力が、育成に必要な要件を定義する。「コミュニケーション能力は入社後、いくらでも鍛えられるから、採用では◯◯を重視しよう」という採用ができる企業が増えれば、同じような学生を奪い合う採用活動も変わっていくような気がするのです。
とは言え、現場の方が「変えたい」と思っても「上」を説得するのが難しいもの。だからこそ「上」を説得する時ほど、学者様のご高説というのは役に立つと思うのです。
「採用学」オススメです。
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