オススメ度:★★★★☆
現在、「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」を読んでいます。これは2005年におきた福知山線脱線事故に関するノンフィクション。amazonの内容紹介を一部引用します。
「責任追及は横に置く。一緒にやらないか」
遺族と加害企業の社長。
相反する立場の2人は巨大組織を変えるためにどう闘ったのか。あの事故から始まった13年間の「軌道」を描く。
私は、この事故を淺野弥三一という一人の遺族の側から見つめてきた。
彼の発言や行動は、これまで私が取材や報道を通して見聞きしてきた事故や災害の遺族とは何かが決定的に違っていた。
淺野の視点と方法論は独特で、語る言葉は時に難解で、JR西に対する姿勢は鋭く峻烈でありながら、柔軟で融和的に見えるところもあった。(「プロローグ」より)
遺族という立場にありながら感情を排し、JR西日本に対して徹底的な改善を促し続け、数年がかりであれだけの巨大組織の風土を変えてしまう。その姿勢、覚悟には圧倒されてしまいます。普通に書籍としては非常に面白く(面白いという言い回しが憚れる題材ですが)、読み応えがあるのですが、ミスと企業風土の関係性に関する本ということも言えます。誰もが、ここで書かれているJR西日本の体質と自分のいる組織との違いや共通点を見出してしまうのではないでしょうか。
当時も「日勤教育」という言葉が大きな注目を集めましたが、ミスを起こした人間を徹底的に罰するという方法論でミスや事故を防止するスタイルだったJR西日本。「ヒューマンエラーは、起こりうるものだから、それを起こさせない工夫や起こったとしても事故に直結させない仕組みやシステムが大事」という考え方が主流な今の感覚で見ると、非常に古色蒼然というか昭和を感じますが、自分の組織を客観的な目で見てみれば、そこまで胸を張れる方も少なくないのでは。
淺野さんの粘り強い活動で、徐々に変わりはじめるJR西日本の風土。安全設備への投資が増え、ミスやヒヤリ・ハットを報告しやすい雰囲気が醸成され、実際に事故なども減っていき、一筋の光が射す中、最後にそれに冷水をかけるようなことが起こってしまうという展開も、ミスを防ぐことの根源的な難しさ、企業風土を変える難しさを象徴し、現実とはそんな簡単なものではないことを教えてくれる気がします。
どんな業界であれ、仕事上のミスというのはしんどいものです。当事者であれば、次の仕事に腰がひけてしまうし、管理側であればミスをした人間に対する怒りに囚われてしまこともあるかもしれません。そんな時に、この「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」を読めばミスに対する立ち向かい方、そしてそのための勇気をもらえるはずです。
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